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 2021年度も47都道府県のご協力により、主要農作物等の種子生産に関する取り組みについて、アンケート調査を実施しました。2018年4月の第1回から数えて4回目の調査となります。

 京都大学大学院経済学研究科教授久野秀二さんによる講評を追記しました。(2021年9月24日更新)

2021年度都道府県アンケート調査結果・講評 9月24日追記

2021年度主要農産物種子法廃止法施行後のアンケート結果まとめ

「2021予算・実施部署」

「2021種子生産に関する施策」

「2021種子生産取組み」

「2021奨励品種と登録品種」 (登録品種 別シート)

 第1回調査では主要農作物種子法廃止直後ということで、廃止前にどのような取り組みがされていたのか、また、廃止後にどのような変化があるのかを聞きました。第2回、第3回では種子生産が今後も継続されるかどうか予算に注目しました。「2021年度主要農産物種子法廃止法施行後のアンケート結果」では自治体ごとに5年間の予算を記載しています。予算に含まれるものは自治体により異なるため、自治体間の比較はしていません。(添付アンケート結果まとめ1ページをご覧ください)

 奨励品種のうち種苗法の下、品種登録されているものについて聞きました。自治体が育種し登録している品種や農研機構(国)が品種登録しているもの、共同で育種し品種登録しているもの等があることがわかりました。

 種子法廃止後には制度的に種子生産の継続を担保するため、条例づくりが進みました。種子法廃止前から制定されている条例も含めると29の自治体で種子生産に関わる条例が制定されています。(添付「2021種子生産に関する施策」では条例本文もご覧いただけます)

 種子法廃止後も種子生産を続ける理由を聞きました。種子生産している道府県は「主要農作物の優良な種子を安定して生産し安価で供給することが重要であり、農業の発展に寄与する」と回答されました。(アンケート結果まとめ19~21ページまたは「2021種子生産に関する施策」をご覧ください)


主要農作物種子法廃止法施行後の措置に関する都道府県アンケート調査(2021年度)の

結果について

京都大学大学院経済学研究科 久野秀二

 今年で4回目となる都道府県アンケート調査では幾つかの新しい試みが見られた。主要農作物種子法廃止に伴う問題点と都道府県に期待される役割については、昨年度の調査結果への講評でほぼ言い尽くしているので、今回は新しい項目を中心に論じることにする。

 第一に、引き続き主要農作物種子事業関連予算の額を尋ねているものの、道府県により農業産出額やそれに伴う農業関連予算の規模に大きな差があるだけでなく、種子事業に関連する予算の区分や具体的な費目、算出根拠も異なるため、横並びの比較を取りやめることになった。道府県ごとに2017年度以降の推移をみると、若干の増減はあるものの、大半の道府県で現状維持が続いていることが分かる。この調査項目を今後も続けることに意義があるとすれば、どこかの道府県に協力してもらい、もう少し具体的な予算の計画と執行のしくみを教示してもらえると、公的種子事業への市民の理解と支持が高まるのではないかと思う。

 第二に、2020年12月に成立した種苗法改正をめぐって農業関係者や市民から多くの懸念が出されたことを受けて、主要農作物種子事業に取り組む各道府県の奨励品種に加え、登録品種についても尋ねている。種苗法改正により、今まで規制の対象ではなかった登録品種の自家増殖が許諾制となるからだ。各道府県の農業振興のため農家に奨励品種の栽培を推奨し、そのために優良な種子の品質を確保し安定的に供給するのが主要農作物種子事業の本務であるならば、当該品種が改正種苗法の新たな規制の対象になるかどうかは、当然、農家の関心事となる。なお、在来種など品種登録されていない品種や登録の期限が切れた品種、いわゆる一般品種は新たな規制の対象からは外れている。

 これに関連して、データは古くなるが、㈱流通研究所というコンサルタント会社が農林水産省の委託を受けて2008年度に実施した「農業者における種苗の自家増殖に関する実態調査」(報告書は2009年3月)によれば、稲を栽培した全回答者(240人)のうち自家増殖した農家は25%だったが、登録品種の栽培農家に限れば、回答者(50人)のうち自家増殖した割合は6%にとどまった。他方、大豆については、全体(91人)のうち自家増殖したのは40%、登録品種の栽培農家(25人)でも32%が自家増殖していた。小麦についても、全栽培農家(49人)のうち20%、登録品種栽培農家(24人)のうち17%が自家増殖していた。サンプルが小さいので、実態をどこまで適切に反映しているかは分からないが、麦・大豆への影響は小さくないと思われる。

 過剰に反応することをここで意図しているわけではない。奨励品種のしくみは、各道府県の農業振興を図り、農家の所得向上と関連産業の発展を促すためであり、そのために各道府県の農業試験研究機関はそれぞれの条件に適した優良な独自品種へと改良を重ねる努力を続けてきたのである。その優位性を市場での販売戦略を通じて実現せざるを得ないかぎりにおいて、種子の品質管理と圃場での栽培管理を厳格に行う必要がある。育成者の権利を保護するだけでなく、その品種と育種素材(遺伝資源)を適切に――とくに主要農作物の場合は公的に――管理するためにも、種苗法における品種登録のしくみは必要とされてきた。国際的にも議論されてきた「農民の権利」との整合性を含め、品種登録制度の是非はここでは問わない。少なくとも、行政や地域農協、そして栽培農家がそのような努力を続けてきたことを踏まえれば、登録品種の管理を厳格にしたいという国の方針は理解できる。繰り返すように、在来種を含む一般品種の自家採種は規制を受けないし、許諾料を払えば登録品種の自家採種も可能だ。ただ、許諾料の負担が今後どうなっていくのか、そして、国と都道府県の役割を「再定義」することになった農業競争力強化支援法の中長期的な影響も懸念されるところである。そうした懸念があるからこそ、もう一つの新たな質問項目である「種子法廃止後も主要農作物等の種子生産を継続する理由」への回答にみられるように、各道府県はその役割と責務を再確認し、それを強い言葉で表明するに至っているのだと思われる。

 第三に、その種子事業継続理由についてだが、ほぼすべての道府県が、種子法廃止後も優良な種子の安定供給を継続的に図ることは「主要農作物等の品質確保と安定供給に不可欠」だからであり、それは当該道府県の「農業の持続的な発展」、「農業者の農業所得の増大と経営の安定」、「消費者への安全・安心な食料供給」、「関連産業の発展ならびに文化の継承」などに寄与するために「極めて重要」だと考えており、それを道府県として「責任をもって」行う必要があるとしている。そして実際、種子法廃止前から制定されている条例も含めると29の道府県で種子事業に関連する条例が制定されるに至った。新たに制定された場合、コメ・麦・大豆以外の地域特産的な作物――雑穀類や伝統野菜など――が対象に含まれるケースも増えている。今年6月に、立憲民主党、日本共産党、国民民主党、社民党の4野党が「農業用植物の優良な品種を確保するための公的新品種育成の促進等及び在来品種の保全に関する法律案」を共同提案した。2018年にも「主要農作物種子法復活法案」が共同提案されたが、公的新品種育成の促進、公的育成品種の有効かつ適正な利用、そして在来品種の保全を通じて、地域における農業の持続的な発展と国民生活の安定向上を明示したものであり、今後の動向が注目される。

 第四に、ゲノム編集品種に関する質問も今回新たに加えられたが、「その他/不明」と回答した3県を含め、現時点で奨励品種に採用して種子を生産するような事例はなく、可能性についても言及できる段階にはない。しかしながら、ゲノム編集技術を利用して開発した農水産物は従来の「遺伝子組換え生物等」とは違うものとされ、生物多様性保全の観点から遺伝子改変生物の扱いを規制するカルタヘナ法についても、「ゲノム編集技術を用いて最終的に得られた生物に細胞外で加工された核酸が残存していない生物」であれば対象外とする方針を政府は打ち出している。すでに「GABA高蓄積トマト」が厚生労働省に受理され、「肉厚養殖マダイ」も届出が準備されているところであり、今後、民間企業と大学・研究機関を中心にゲノム編集技術の実用化とゲノム編集食品の商品化が進んでいくことが予想される。農林水産省の資料によれば、超多収イネの育種素材や天然毒素を大幅低減させた馬鈴薯の研究開発が進められているという。遺伝子組換え技術がそうであったように、DNAを編集して実現できる作物等の機能改変には限界があり、それだけで地域農業の活性化と持続的発展に必要な実用品種が容易に開発できるとは思わないが、GABA高蓄積トマトのように、消費者ニーズの多様化・高度化への対応といった言説によって、話題性のある高機能作物がコメ・麦・大豆などでも開発され、少なくとも産地銘柄品種に採用されるような状況は十分にあり得るだろう。今のところ単独の質問項目にする意味はあまりなさそうだが、従来からの質問項目である「国の研究機関や民間企業との共同開発」の一部としてゲノム編集技術の有無を今後も尋ね続けることは、市民の関心を都道府県に伝えるメッセージにはなるだろう。

 われわれ大学・教育研究機関もそうだが、地方自治体は上(都道府県は国、市町村は都道府県)からひっきりなしに降りてくる進捗調査や意向調査への対応に日々追われているし、ある意味で、事務的な処理に慣れてしまっている。だからといって、調査を実施する側としてはそうした「おざなりな回答」では困るので、何らかの工夫が必要だろう。今後もアンケート調査を継続する場合、進捗状況を毎年確認する基礎的な項目に加え、今回の「継続理由」や「登録品種」、「ゲノム編集技術」のように、その時々の政策動向や社会経済状況に即した質問項目を新たな継続項目に加えたり、アドホックに尋ねたりすると、回答する都道府県の側にも緊張感が生まれ、より有意義な回答を引き出すことにも繋がるかもしれない。

 以上


第1回(2018年4月)アンケート調査結果

第2回(2019年4月)アンケート調査結果

第3回(2020年4月)アンケート調査結果


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