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 2020年4月、都道府県へ「主要農作物種子法廃止法施行後の措置に関するアンケート」を実施し、全自治体から回答がありました。2018年4月の主要農作物種子法廃止法施行後、3回目の調査となりました。以下の通り、回答結果を公表いたします。アンケート実施当初からコメントをいただいている久野秀二京都大学大学院経済学研究科教授にご講評いただきましたのでご覧ください。


2020年 久野秀二京都大学大学院教授講評

2020年 主要農作物種子法廃止後の都道府県アンケート結果速報 

2020_都道府県データ1 予算 

2020_都道府県データ2 実施部署、奨励品種

2020_都道府県データ3 品種決定試験、原々種・原種生産、ほ場指定、審査、指導

2020_都道府県データ4 条例の有無、共同開発 

2020_都道府県データ5 意見書提出

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主要農作物種子法廃止法施行後の措置に関するアンケート結果講評

京都大学大学院経済学研究科教授 久野秀二

 主要農作物種子法(以下、種子法)が2018年4月に廃止(廃止法案の採択は2017年4月、農業競争力強化支援法の施行は同8月、農林水産事務次官通知は同11月)されてから2年が経過した。廃止法施行後の措置に関する都道府県アンケートも今回で3回目となるが、全体的には現状維持が続いていることが確認できる内容となった。それゆえ論評すべき点はそれほど多くはない。昨年来、もう一つの種苗法改正をめぐる話題が先行し、関心ある生産者、消費者、活動家の意識もそちらに向けられていたようなので、あらためて種子法について簡単に説明しておきたい。

 1952年に制定された種子法は「国民の食料を確保する食料安全保障に対する国の意思であり、その実行を生産現場である都道府県に義務づける法的根拠」(北海道農試・田中義則氏)であり、その下で都道府県は「関係機関との連携により品種改良と種子生産のシステムを維持し、主要農作物種子の品質確保と安定供給」(同)に取り組むことができたのである。そのような意味で、国内各地域の農業の発展、良質で安定的な食糧生産を根底から支えるものだったといえる。もちろん、真の多様性を圃場単位で追求し、種子と作物の作り手との対話の中にその真髄を見いだすのであれば、各都道府県で広く普及すべき奨励品種を指定し、その種子の生産・供給を都道府県の責任の下に進めてきた種子法は、むしろ乗り越えるべき壁だったのかもしれない。しかし他方で、都道府県を軸に試験研究機関や普及機関、生産者団体、実需者団体など様々な関係機関・関係主体が連携しながら、各地域の多様な環境の下で営まれる多様な農業に適した品種、あるいは良食味米や増収米など実需者ニーズに対応した品種を開発し、良質な種子を安定的に供給し、その栽培を振興し、さらにマーケティング努力も重ねながら地域ブランド品種に育て上げることによって、地域農業の活性化を図ってきたのも事実である。そのことを考えれば、法制度に柔軟性を持たすための改正を施すことはあっても、種子法自体を廃止し、目的も手段も異なる農業競争力強化支援法に溶け込ませるようなことなど本来はありえない話であったが、そのあり得ない話がいきなり提案され、十分な審議もないまま通ってしまったというのが、種子法廃止をめぐる騒動だった。

 種子法は米、麦、大豆といった主要農作物の種子だけを対象としてきたが、県によってはそれ以外の地域特産作物も公的種子事業の枠内、あるいはその延長上で取り扱うことがあったし、試験研究機関では野菜や果樹といった園芸作物の品種開発も含め、地域農業の振興に大きな役割を果たしてきた。京都府や大阪府、長野県のように地域伝統野菜の遺伝資源を発掘し、保存し、改良を加えながら、その生産振興と販売促進に力を入れる県も増えている。新品種も伝統品種も、種苗法でいうところの登録品種であれ一般品種であれ、都道府県とその試験研究機関が、国内外の研究機関やジーンバンクとも連携しながら、あるいは地域の農家・園芸家とも連携しながら開発してきた優良品種は、文字通り「地域の共有財産」であるし、さらなる改良に向けて保全・利用される遺伝資源としては「全人類の共有財産」ともなりうるものであるが、それは必ずしも、種苗法が管轄するところの育種者権の否定を意味するのではない。育種・品種改良の努力は権利として保証しつつ、さらなる品種改良に資する育種素材としては共有資源とすべきなのである。そうした「共有財産」としての種子・遺伝資源を生産、供給、管理する役割を都道府県に課すことも、主要農作物種子法の精神に込められていたと言えるかもしれない。

 各都道府県はそのことを理解(自覚)しているからこそ、2017年11月の事務次官通知で「都道府県がこれまで実施してきた稲、麦類及び大豆の種子に関する業務のすべてを、直ちに取りやめることを求めているわけではない」と言われようが言われまいが、種子法廃止後も引き続き同規模の予算を確保しながら主要農作物種子事業を粛々と進めているのであり、また、試験研究機関を通じて様々な地域農作物の改良と種苗(原種や母株)の供給に取り組んでいるのである。種子法廃止に伴って、「指定」が「認定」や「届出」、「報告」に、「審査」が「検査」に、責任主体が県から米麦改良協会や種子協会に変更されたケースも散見されるが、種子事業の骨格は変わっていないように思われる。また、2019年度に新たに13道県が加わり、現在では19道県で主要農作物種子事業に関する条例が制定されているし、さらに7県が2021年4月までに条例の制定・施行を予定しているという。また、条例のない28府県のうち、独自の実施要領ないし実施要項を持っているのは22府県となった。つまり、条例も要領も要項もないのは6都県であり、うち条例制定を予定している4県、事業ベースで予算を確保している1県を除けば、東京都を除く全道府県で何らかの対応がされているということになる。

 ここまで都道府県で対策が講じられ、継続的な実施体制が固まってきた現時点で、今後も都道府県アンケートを毎年実施していく意味があるかどうかは分からない。もちろん、条例と要領・要項とは重みが異なるのだから、都道府県の意思表示として、そして自らを制度的に律するためにも、条例制定を要求していくことは必要だろう。さらに、総務省は「引き続き種子生産の経費を織り込んで地方交付税を配分する」としつつ、「状況が変われば見直す」との本音を隠していないし、予算を保証することなく事業の実施と責任を地方に押しつけることを厭わない現政権の新自由主義的地方分権政策が継続される限り、そして国と都道府県に民間事業者の「黒子」になることを要求する農業競争力強化支援法がそこにあるかぎり、条例の制定を目的化するような運動では心許ない。他方、民間事業者と共同開発すること自体を否定することはできないとすれば(実際に判明しているのは、ビール会社やJAグループとの共同開発である)、注目し続けるべきはむしろ、主要農作物以外の作物も含め、都道府県とその試験研究機関や普及機関が十分な予算と人員体制のもと、遺伝資源の「共有財産」としての保全と利用に責任を果たしているかどうか、地域の多様な農業に適した品種の開発と種苗の供給を継続し、他の関係機関とともに地域農業の振興・活性化に役割を果たしているかどうか、であろう。

 最後に蛇足となるが、前回も前々回も指摘したように、主要農作物種子事業に関する予算の規模は都道府県によって扱い(予算区分やその算出根拠)が異なるし、農地面積・農家数や農業産出額も異なるので、単純に横並びで比較するのは避けた方がいいかもしれない。

以上

この企画は地球環境基金の助成を受けて実施しました。

 

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