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2016年6月16日、通常会員総会記念講演会「ゲノム編集食用作物~技術と問題点、社会的課題について~」を実施しました。北海道大学安全衛生本部石井哲也教授による講演映像および講演要旨を報告いたします。

石井哲也先生講演会要旨

遺伝子組み換え作物とゲノム(遺伝子を含む遺伝情報一式)編集によって作られた作物は、ともに既存の植物の細胞をもとにして、遺伝子を操作することで出現した、新しい形質をもった品種である。しかし両者の間には大きな違いがある。遺伝子組み換え作物の作製は基本的に、元となる植物個体にはなかった遺伝子を外部から導入することで新しい形質を持たせている。除草剤をかけても枯れない特性を発現させる遺伝子や、虫の消化器官に損害を与える特性に対応する遺伝子を、外部から植物細胞に組み込むことで、そういった特性を備えた植物個体を作り出すのである。けれども植物ゲノムの中の狙ったところに遺伝子を正確に組み込むことは難しいし、また外来の遺伝子を導入したことで元の植物の機能が損なわれることもある。こうして、望ましい特性をもちながら安定的に栽培できる新しい品種を開発する作業は、効率も悪く時間もかかるものであった。

それに対してゲノム編集は、遺伝子組み換えもできるが、外部から遺伝子を導入せずに狙った遺伝子の特定部位で変異を起こすことができる。具体的には、植物ゲノムにある、注目した形質に対応する遺伝子の特定配列を切断して、細胞自身が切断を修復しようとするときに一定の確率で起こる「間違い」を利用して変異を起こさせる。つまり、ゲノム編集とは人為的に引き起こした遺伝子配列の切断をきっかけにして細胞自身が元々備えている修復能力を発揮させているだけだと言える。ただし遺伝子配列の切断や変異導入の効率の飛躍的向上によって、自然では起こりえないほどの頻度で、また同時に複数の遺伝子に変異を引き起こすことができるようになっている。こうして引き起こされた変異のうち研究者の意図に適ったものを残すことで、意図した形質を備えた新しい品種が1年もかからずに作製できるのである。

このようにゲノム編集は遺伝子組み換えと比べると、より効率的で、より自然にみえる育種方法だと言えるが、実際の応用において全く問題がないとは言えない。主な問題点として挙げられるのはオフターゲット変異をどう評価するかという点である。それは、研究者が設計した遺伝子配列に変異が入り、新しい形質を発現させることに成功したとしても、一方、設計ミスで全く異なる遺伝子配列が切断され変異が入ることで予期していなかった食品安全性や環境に対する問題が生じる恐れがあることである。このいわば副作用のような現象が、新たに作られた新品種に生じていないかどうかを実験室で十分に検証しないうちは、その新品種を試験栽培に利用することには慎重であるべきではないか。第二に、ゲノム編集は自然には滅多に生じない遺伝子変異をもった作物品種を、短期間に次々と開発できるため、これら作物の大規模耕作が環境全体に与える影響を予測することが極めて困難である。外来遺伝子を導入していないのだから従来育種法による品種と変わらないとするのは安易な見方であろう。ある環境に、それまで存在していなかった外来種が定着したことで環境全体が深刻な変容を被るといったことも多い。

現時点ではゲノム編集は研究段階にあり、その成果を利用した製品はまだ市場に出回っていない。ただオフターゲット変異の検証法にしても環境への影響の検証法にしても、多くの国では合意はない。科学者自身も、生態系に及ぼす影響について真摯に検討している様子は見えない。有害事象が起きていないからといって安全だと結論づけるのではなく、リスクを想定し、リスクを評価する仕組みを考え、リスクを減らす自制的なルール作りを進め、その上で技術がもたらす利益を適切に利用するのが正当ではないか。最終的にゲノム編集が受容されるかどうかは、結局は市民、消費者がその産物を受け入れるかどうかにかかっている。ベネフィットとリスクの両方を勘案して受け入れる人もいれば、拒否する人もいるだろうし、自分の生命倫理観に基づいてあらゆる改変を拒否する人もいるだろう。市民、消費者が適切な情報に基づいて適切に判断し、その結果に基づいて行動することが重要である。その前提として、リスクの程度が明確に示される必要がある。また、社会的議論のベースとなる規制が重要であるが、遺伝子組み換えの技術に基づいた規制はもはや時代遅れではないか。「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(カルタヘナ法)」※の再点検が必要だ。

文責:高澤裕考

※カルタヘナ法とは

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