たねと食とひと@フォーラムは、たねといのちの多様性と持続性のために活動しています。

 たねと食とひと@フォーラムと交流のある那須拓陽高校SoyPro同好会(前Soyプロジェクト)のメンバーで高校3年生の西岡桃さんが2022年(第50回)毎日農業記録賞・高校生の部で優秀賞及び全国農業高校校長賞を受賞されましたので、受賞作「地大豆が拓く新しい扉」を紹介します。

 作文にはSoyプロジェクトでの大豆栽培を通じて学んだこと、そして未来への思いが書かれています。「オダイズサイ」、「おうちでたねまき」、モモノハタケでの大豆の種まきなど、一緒に取り組んできた仲間の受賞作をぜひ、お読みください。

 『SOYプロジェクトでの経験は「すべての生命は種から、種は未来に繋がっている」ことを教えてくれました。』(作文より)


 2022年(第50回)毎日農業記録賞 主催・毎日新聞社/後援・農林水産省、文部科学省、各都道府県・教育委員会、全国農業高等学校長協会/協賛・全国農業協同組合中央会、全国農業協同組合連合会、全国共済農業協同組合連合会、農林中央金庫、東京農業大学

 農業記録賞 高校生部門 西岡 桃(ニシオカ モモ)栃木県立那須拓陽高等学校・3 年

「地大豆が拓く新しい扉」

 私が生まれ育った栃木県大田原市花園地区は、田んぼに囲まれた自然豊かな所です。母は 江戸時代から続く米農家の十五代目で、幼い頃から農業をしている母や祖父母と一緒に田 んぼで過ごす時間が大好きでした。

  高校進学の際、自分が将来やりたいことはなんだろうと考え、植物に関わることを仕事にしたいと思いました。そこで、私は地元の農業高校である那須拓陽高校へ進学しました。

 私が入学式を終えて帰ろうとしたその時、一人の先生から声をかけられ「よかったら地大豆を育て、加工品作りをする SOY プロジェクトを一緒にやらないか」と言われました。その時、嬉しい気持ちと、なぜ私に声をかけてくれたのかなと言う疑問が残りました。後で聞 いてみたところ、受検の面接で私が言った「観て楽しい、食べて美味しいガーデンを作りた い」という言葉に共感してくださり、声をかけてくれたとのことでした。

 地域で継いで、地域を繋ぐ

  SOYプロジェクトは、地元や日本各地に古くから栽培されてきた「地大豆」を育て、加工事業所と連携しながら商品作りを行う学科横断型のプロジェクトです。大豆を栽培する畑は学校農場のほか、地域の耕作放棄地を活用して環境保全型農業を実践しています。収穫 した大豆は加工品の原料として利用するだけでなく、翌年の種として自家採種をしています。それにより「持続可能な地域社会の形成に貢献すること」をミッションとしています。

 大豆栽培は、みんなで横一列に並び、手作業で一か所に二粒ずつ撒くところから始まります。その後の管理は、放課後や休日に除草作業をしたり、鍬や管理機を使って中耕と土寄せをしたりしました。取っても取ってもまたすぐに生えてくる草やヒメコガネなどの虫害、初めて挑戦した管理機での作業など、苦心することもたくさんありましたが、仲間や先生と知恵を絞って栽培を進めてきました。やがて、大豆が大きく葉を伸ばし、花が咲き、実をつけ、収穫を迎えることができた日の感動は一生忘れることができないと思います。

  収穫後は乾燥させ、脱穀してから一粒一粒を確認して選別しました。作業のほとんどを手作業で行っています。農家では、ほとんどが機械化されている工程ですが、私たちは極力手作業で行うおかげで、大豆をじっくりと観察することができます。その結果、ますます大豆が愛おしく、好きになっていきました。

  私たちは、新たな地域経済を作るブランディングをしています。私たちの大豆は、そのま ま販売すると1kg あたり 1,000 円位で売ることができますが、例えば「納豆」に加工した場合、最小ロット 2kg の大豆から納豆が50 パック製造できます。それらを1 パック300 円で販売しているので、加工委託料として5,000 円かかりますが、全て販売すると15,000 円の売り上げになり、10,000 円の利益が生まれます。つまり、豆のまま販売するよりも5倍多くの収益を得ることができます。そして、連携した地元の事業所にとっても新たな売り上げとなるのです。

  プロジェクトにとって、醤油作りは特別な思い入れがあります。私は5月に醤油搾りと瓶詰めを体験しました。実はこの醤油の原料となった大豆は、プロジェクト初年度に収穫した大豆でした。仕込みは翌年だったので、栽培した先輩たちはもう卒業していました。私たちがお願いしている地元の蔵では発酵に2年の歳月をかけています。だから、仕込み作業を行った先輩たちも卒業しています。私たちはそうやって先輩たちが手をかけた醪を搾り、醤油にしました。私たちの活動は種だけでなく、こうした先輩方の思いも受け継いでいるのだと感じた瞬間でした。

 さらに、豆腐作りは「品種の存亡」を考えるきっかけになりました。私たちは、毎回違う 品種の大豆を使って豆腐作りをしています。5作目となった豆腐の原料に用いたのは「赤塚」という県内で昔作られていた赤大豆です。しかし、今ではこの品種を作っている農家さんはほぼいません。赤大豆を原料にすると、ほんのり桃色の豆腐ができるので、みんな期待を寄せていました。いざ、商品ができ試食をしてみると、顔を見合わせ沈黙しました。「見た目 はかわいいけど、あんまり美味しくないね。」皆がうなずきました。この経験は、いくら希 少な品種でも、食べる人の嗜好に合ったものでないと遺っていかないのだと気づかされました。品種の存亡は共生関係の上で成り立っています。だから、種だけ、品種だけを残していてもダメなのだと考えるようになりました。レシピや伝統行事との関係など、文化とあわせて遺さなければならないのです。

  収穫した大豆を使って「おうちでたねまき」という企画を行いました。高校の全校生徒と先生方に10 粒ずつ配って庭やプランターで育ててもらい、その生育の様子を SNSに投稿してもらう企画です。コロナ禍で臨時休校となって、家で過ごす時間が増えた日々を、少しでも充実させて欲しいとの願いを込めました。また、近隣の保育園、小、中、特別支援学校には、竹のプランターを添えて配りました。この竹プランターは荒れた竹林を整える活動をされているグループの方々と一緒に自分たちが切り出し、福祉施設で加工され作られたものです。大切に育てた大豆を渡す時、自分の手から離れる切なさを感じましたが、きっと大 事に育ててくれると信じて託しました。秋になると、保育園の子どもたちが収穫した大豆を持って直接届けに来てくれました。手渡された時「ありがとう」というあたたかい感謝の気持ちが心の中に溢れました。子供たちからは「育てるの楽しかった」「頑張って育てました」など、嬉しい言葉をもらい、種を通して人と繋がれることに喜びを感じました。

  12月には大豆の収穫祭を行いました。大豆は主食にはなりませんが、日本食の日本食らしさに一番貢献していると思います。だから私たちは、大豆に敬意を表し「おだいず」と呼んでいます。その収穫を祝うお祭りなので「オダイズサイ」と名付けました。そこで、私は実行委員長を務めることになりました。最初は不安でしたが、仲間と助け合いながらイベントの企画運営をしました。

 私たちの活動に賛同してくださっている専門家の方々の講演会や映画上映会、ワークショップや種の交換会、ミニライブなど盛りだくさんの内容となりました。マルシェも開催し、県内のみならず近県の方々が出店してくれました。このマルシェはそれぞれの県の頭文字をとってGIFT(群馬・茨城・福島・栃木)マルシェと名づけました。

  開催後、会場となった公民館の館長さんから「この場所でこんなにたくさんの人たちが集 まるイベントができたことに驚いた。地域の方々がとても喜んでいたよ。来年もぜひ開催して欲しい。」と、想像以上の言葉をいただき、誇らしい気持ちになりました。大豆を大切に育てることが、たくさんの人と人とを繋げるネットワークを築いていくことになっていたなんて考えてもみませんでした。

観て楽しい、食べて美味しいガーデン

 今年はさらに、自宅の畑を母から譲ってもらい SeedsGarden”モモノハタケ”をスタートさせ、野菜と地大豆の栽培に挑戦しています。このガーデンのコンセプトは「来てくれた人と一緒に栽培し、ワクワクするような植栽を創ること」です。そして、一緒に料理もします。土に触れ、汗を流した後に、炊き立てのご飯と自分たちが育てた素材を使った料理をみんなで囲んで食べる時間は、美味しさだけではなく、ウェルビーイングを満たしてくれる時間です。SOYプロジェクトでの経験は「すべての生命は種から、種は未来に繋がっている」ことを教えてくれました。そのことを私なりに伝えるガーデンにしていこうと考えています。来年はそうした空間をさらに充実させるため、明治時代からある蔵や納屋を改装して農泊施設を新たにオープンさせます。

  心地よい風が吹いて、ここに来た誰もが新しい窓を開く。私は、そんな場所を醸していきたいです。

以上


大豆ができるまでの1年 モモノハタケより

             


  2022年12月3日、「オダイズサイ2022」の会場で西岡桃さんにインタビューしました。

🎤 受賞おめでとうございます。作文にはSOYプロジェクトで大豆栽培を通じて学んだことが書かれています。活動を通じて心に残っていることは何ですか?

西岡さん 最初は全く大豆に関する知識がありませんでした。種まきから収穫まで大変な作業を積み重ね、さらにはその大豆も味噌や醤油となってできあがるまでには2年も3年もかかります。大豆はいろんなものに形を変えて私たちの食生活を支えてくれます。大豆の奥深さを知れば知るほど大豆が好きになり、もっと追求したいという気持ちになりました。

🎤 西岡さんの夢「観て楽しい、食べて美味しいガーデンを作りたい」とは具体的にどういうガーデンなのですか?

西岡さん 「エディブルフラワー」というものがありますが例えば「花オクラ」の種を今日(※インタビューの日はオダイズサイ。種の交換会がありました)手に入れました。これを来年は蒔いてみたいです。私の自宅敷地内で「momo farm」を始めました。ここではエディブルフラワーをはじめ、おいしい野菜を育てています。

🎤 夢の実現に向けた一歩ですね。

西岡さん この夏は育てた野菜を、来てくれた人と一緒に収穫し、みんなで調理して食べました。今、母屋の改築を進めています。2023年春から民泊もできるようになる予定です。観て楽しいだけでなく、農作業も楽しめる、みんなでわいわい美味しく食べたい、そんな場所にしたいです。

以上

 

アーカイブ
  • [—]2024 (6)
  • [+]2023 (16)
  • [+]2022 (16)
  • [+]2021 (22)
  • [+]2020 (22)
  • [+]2019 (20)
  • [+]2018 (27)
  • [+]2017 (23)
  • [+]2016 (35)
  • [+]2015 (13)
  • [+]2014 (8)
運営団体について

たねと食とひと@フォーラム

住所:〒101-0054 東京都千代田区神田錦町3-21
ちよだプラットフォームスクエア1342
電話:050-6877-5616
FAX:03-6869-7204
E-mail:info@nongmseed.jp

当会についての詳細
運営規約

Tweet