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 10月14日、15日、岡山県岡山市にある林ぶどう研究所代表で育種家の林慎悟さん、花澤ぶどう研究所代表の花澤伸司さんを訪問し、お話を伺いました。


【花澤ぶどう研究所編】 10月15日訪問

 花澤ぶどう研究所は、2019年4月に30周年を迎えました。代表の花澤伸司さんは、お父様の瀬戸ジャイアンツ原木を保存しながら、ぶどうの生産と販売に取り組んでいます。

写真:瀬戸ジャイアンツの原木と花澤伸司さん

🌱 先日は、林ぶどう研究所をご紹介くださり、ありがとうございました。

花澤:林さんは個人育種家として経験を積まれていて、関連団体での活動や情報発信等も積極的に行われています。最近では日本古来種の山葡萄を使ってワインを作る取り組みを始められたとも聞いています。素晴らしいですね。

 🌱 花澤さんは育種をされないのですか。

花澤:私は、10年前にそれ迄勤めていた会社を辞め、両親のぶどう作りや販売を手伝うようになりました。研究所のシンボルマークを作ってブランディングし、HPもリニューアルしました。当時、瀬戸ジャイアンツを旗印に多品種でやっていく方向は初めから明確だったのですが、家業として、ぶどうの生産でやるのか、苗木作りでやるのか、育種をするのかという分岐点はありました。

 育種については、父が研究していたこともあり小学生の頃から身近にありました。父に「どれでもええから交配させて植えてごらん」と言われて手伝っていたことをよく覚えています。それから年月が経ち、1979年に交配した瀬戸ジャイアンツが1989年に品種登録されました。当時の品種登録制度では、果樹の育成者権は18年。インターネットもSNSも無い時代でしたので、その後瀬戸ジャイアンツが世に知られるようになる迄には、同じくらいの年月がかかりました。育種=新品種の開発は、生産者の地位や収入向上の為の取組みとしていながらも、苦労の割に報われないという現実と、林さんが父の育種技術を継承してくれていた安心感みたいなもの、そもそも私は性格的に育種には向いていないという気持ちもあって、育種の継承はしませんでした。

 次に苗木作りについて。父は販売用の苗木作りも行っていましたが、私は育成者権が切れた一般品種なら、もっと本格的に苗木作りに取り組んでいる種苗業者等に任せてもいいのではないかと考えていました。苗木作りの時期が、生食ぶどうを作る時期と重なることも理由のひとつでしたが、研究所を継続させていく為の優先事項を考えた時に、苗木作りに割いていた時間は、生食ぶどうの育成と販売に集中させることにしました。

 🌱 花澤さんのところには、もう育成者権のある登録品種はないのですか。

花澤:父が登録したぶどうは7品種ありました。最後は、マスカットデユークアモーレという赤色系の高糖度品種でしたが、7年前に育成者権が切れました。登録品種がなくなっても、瀬戸ジャイアンツを開発した花澤ぶどう研究所という存在感は大きくて、いまだに育種や栽培方法についての問い合わせがあります。種苗関係の方からは、「瀬戸ジャイアンツの花澤さんですか。お父様にはずいぶんお世話になりました」と丁寧にご挨拶いただいて恐縮することもありました。瀬戸ジャイアンツは2007年に登録が切れて一般品種になってから、それこそ誰でも自由に栽培ができるようになったわけですが、現在でも栽培されている先々で想像以上にいろんな物語を紡いでいるようです。それを思うと、品種というものの持っている力の凄さには、ただ驚かされるばかりです。

 🌱 ぶどうの品種改良では、個人の育種家の存在が大きいのですね。

花澤:生産者が育種に取り組んできた歴史の見本みたいになっていますね。国の農研機構がシャインマスカットを登録したのが2006年。その15年以上も前に、同じように種なし皮ごとで食べられる大粒の緑のぶどうを生産者自身が作っていたわけですし。日本では、個人の育種技術も優秀ですよね。今回の種苗法の改正は、そんな民間のエネルギーをつぶすようなことがないように、登録品種をきちんと管理しようねというのも目的ですよね。

 育種は5年10年どころではなく、途方もなく長い時間がかかります。父をそばで見てきた私にはわかりますが、まさに人生と生活の両方を捧げるようなものです。個人の育種家、育種(種苗)業者、国(農研機構)等、どこも大事にしなくてはいけないと思いますよ。多様性という言葉が正しいかどうかはわかりませんが、ものの見方は一方向からじゃだめですよね。最近のいろいろな議論をみても、もっと冷静に事の本質を考えることが必要だと感じます。

 🌱 ぶどうの生産・販売で苦労されていることをお聞かせください。

花澤:最近は災害リスク、天候リスクが増えましたね。ここ数年でほんとに極端に変わってきているのではないでしょうか。もちろん被害は農業だけではないし、今年はコロナによる社会的影響も大きくて比べようがない部分もありますが、これまではこうだったというのが通用しなくなりつつあります。大型化した台風や豪雨で、作物だけでなく施設(ハウス等)や設備もやられてしまう。鳥獣害の被害も酷くて、住宅地近くでもそこらじゅうイノシシの電柵だらけ。ちょっと山奥に行くと、鹿が出る、猿が出るというような状況です。既に悩ましいというような言い方では済まなくなりました。生産者の高齢化や後継者不足は益々深刻になり、最終的には生産者の減少は免れないところでしょう。そういう時代になった時に、特徴のある新しい品種が支えとなり、生産者の役に立ってくれれば良いのですが。

 🌱 花澤さんは加工品も作られているのですか。

花澤:ちょっと前まで、高級ぶどうは生食用で販売するのが大原則でした。父は少しでも販売する為にコンビニに持ち込んだり、道の脇で売ったりしていましたね。さすがに、そこはもっと効率よくできるのではないかと、加工品作りを始めました。ちょうど六次産業とういう考え方が広がり始めた頃でしたが、農家はみんなジャム作り。ぶどうやいちごなどの果物農家だけでなく、ニンジンやトマトなど野菜農家も入り混じって、道の駅はジャムだらけになりました。目新しいうちは売れるのですが、これはさすがに続きませんでした。それ以外では、飲む酢(ビネガー)、アイスクリーム、アイスキャンデーも作りました。最終的に現在も継続して作っているのは、レーズン、グレープ100%ジュース、生食ぶどうの日本ワインです。近所のケーキ工房“ポム”さんとコラボした季節限定のロールケーキや大きなレーズンが包まれたチョコレートも美味しいですよ。

 🌱 今度、ぜひ購入させてください。今日は、お父様がデイサービスでお留守のところ、おじゃまさせていただきありがとうございました。最後に、もし可能でしたらお父様の瀬戸ジャイアンツ原木を見せていただけますか。

花澤:いいですよ。すぐ、そこにありますから。すべての瀬戸ジャイアンツの親となった原木です。お年寄りですが、いまだに実をつけるのですよ。

以上

取材:たねと食とひと@フォーラム運営委員

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