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 10月14日、15日、岡山県岡山市にある林ぶどう研究所代表で育種家の林慎悟さん、花澤ぶどう研究所代表の花澤伸司さんを訪問し、お話を伺いました。


【林ぶどう研究所編】10月14日訪問

 代表の林慎悟さんは、ぶどう生産の傍ら、品種改良に取り組んでいらっしゃいます。

写真:林慎悟さん・ぶどう園にて

🌱 はじめまして。林さんのところでは、どのような取り組みをされているのですか。

林:ぶどうの生産と品種改良をしています。生産では、環境負荷が低く、かつ効率のよい栽培方法を、微生物の力を借りながら実践しています。品種改良では、新しい品種を作り出す、いわゆる育種に取り組んでいます。

🌱 生産と育種をされているのですね。育種は耳慣れない言葉ですが、品種改良とは違うのですか。

林:品種改良と育種は、基本的に同義語です。うちでは、自家保存してある100種類の品種を掛け合わせて、交配による品種改良に取り組んでいます。

 🌱 交配というと、あの雌花と雄花の先を…。

林:そうです。違う品種の花粉をめしべにつけてやることで、新しい品種が生まれます。ぶどうの場合は、交配後に実った房の種から苗を作り、数年がかりで選抜し、接ぎ木で増やしていきます。素材となる品種も、種ではなく樹として保存しているため、一年中、きめこまやかな管理が必要です。

 🌱 登録品種のぶどうもお作りだと伺っています。今、登録されているものを教えてください。

林:マスカットジパングという種なしで皮ごと食べられる緑のぶどうです。大粒で上品な甘さが特徴で、岡山限定品種にしています。育成には10年以上かかりました。これは、かなり短い方で、20年、30年かかるのが一般的です。

🌱 育種には、一般的にどんな方々が取り組まれているのですか。

林:国や県など公的機関による研究開発がひとつです。次に、企業ですね。最後に、僕みたいな個人の育種家です。ぶどうの場合は、公的機関と個人で半々くらいでしょうか。この割合は作物によって大きく違います。米なら公的機関が中心ですし、果樹なら公的機関と個人が多いですね。寡占状態にならないことも、持続可能性の観点からは重要だと思っています。

🌱 公的機関、企業、個人で、役割がそれぞれ違うのでしょうか。

林:違いますね。国と県でも違いますし、企業と個人でも違います。国の研究機関は農研機構になりますが、安定生産・安定供給を最優先にしていると思います。農研機構が開発したシャインマスカットが扱いやすいというのはまさにそこです。県になると、県内農家の所得向上を目指した地域産品が多い。民間企業は、当然ながら営利目的です。個人の場合は、付加価値で工夫するなど幅があると思います。いずれにしても、特性や栽培条件、生産現場での必要性などを念頭に、消費者や生産者に選ばれる品種作りをめざすのは共通です。

 🌱 林さんが育種に取り組まれたきっかけを教えてください。

林:僕は、就農をきっかけに、瀬戸ジャイアンツを開発された花澤ぶどう研究所の花澤茂先生を訪ねました。「品種に勝る技術なし」と教わり、僕もそう思ったので、やってみようと思いました。当時、岡山は高級ぶどうマスカットオブアレキサンドリアの特産地で、それ以外の品種はあり得ないほどでした。しかし、次第に市況というか値段が下がってきて、大丈夫かなと。

 はじめに「育種をやると貧乏になるけど、やってみるか?」と聞かれました。そのくらい報われないのが育種の仕事で、これは昔も今も同じです。僕も、今まで500交配くらいして7000個以上の種をまきましたが、その中で登録できたのは一つしかない、そのぐらいの確率でしかものになる品種は生まれてきません。その間、樹を保存してある畑も、育種を試している畑も、経費や労力はかかるのに、お金にはなりません。収支計算するとマイナスです。「ここでシャインマスカットを育てていれば、100万円の収益になったのに」ってなりますよね。

🌱 大変なお仕事ですね。品種登録の手続きも大変なのですか。

林:書類による特性調査では、農水省の作物ごとの特性表を見ながら、葉や実の形から枝ぶりまで細かく記録していきます。それに、実物も準備しないといけないのですよ。出願する品種の複製をいくつも作るだけでなく、対象品種も自分で何種類か用意して、経験を積んだ専門家による審査を受けます。登録5要件(区別性、均一性、安定性、名称の適切性、未譲渡性)の全てをクリアしないといけない。時間もかかります。栽培試験で、同じものが何年もできるか、新規性があり対象品種と明らかに区別できるかなどの判定があります。それに、登録にはコストがかかりますが、登録後も毎年の維持費が必要です。現状だと、3年目までは年間6,000円の登録料、4年目からは9,000円、7年目からは18,000円、10年目以降は36,000円です。果樹なので最長30年間登録しておくなら、出願料も合わせて全部で90万円以上かかります。簡単な気持ちでは、正直、難しいです。

 🌱 それでも、林さんが品種改良に取り組まれるわけを聞かせてください。

林:品種改良が必要な理由ですね。わかりやすいのは、温暖化による環境の変化です。日本は、海に囲まれて四季に恵まれた国でしたが、気候変動で暑くなり、作りこなせない品種も出てきました。そこに、海外からの輸入がどっと増えてくる可能性もあります。収穫減や売上不振で所得が維持できないと、農家はどんどん廃業していく。自給率はますます下がる。高齢化による農家のリタイアが増える中で、農業をどうやって魅力的な産業にしていくか。多収で収益が上がる構造もいいし、魅力的な品種で少収だけど高価なのもありです。多様性があることで、消費者の購入意欲が湧き、生産農家も安定していく。育種のニーズは、そこにあると思います。僕も、ぶどう農家やぶどうの栽培も含めた日本の農業を品種で守りたいという使命感で続けているのが本音です。林ぶどう研究所と名乗っているのも、ずっと育種に取り組んでいきたいとの自分なりの決意表明です。

 🌱 なるほど、多様性のあることがポイントなのですね。品種登録制度は、国会で改正案が審議される種苗法の枠組みのひとつと聞いています。林さんが今回の改正で不安に思われていることを教えてください。

林:その前に、僕が思う品種登録制度の意味合いについてお話させてください。この制度は、品種開発に取り組む人がいなくなってしまわないように工夫された、期限付きの経費還元のしくみだと思います。誰かが儲けるためのものではなくて、僕のような育種家も役割分担のひとつとしてやっていけるように、登録品種を利用する農家に妥当な対価としての契約料を少しだけ払ってくださいねということだと思っています。

 改正案で、登録品種の農家の自家採種・自家増殖が許諾制になることが懸念されていますが、実は現状とあまり変化はなさそうです。現行法には、「もし、契約を定めた場合は契約の方が優先される」という条項があります。例えばいちごだと「1年間いくらで作ってもいいですよ」とか「増殖は何株までにしてください」とか、許諾契約が個別に結んであることが多いです。特に自家増殖するような作物は、そういうケースが多そうです。ところが、現実には県などがまとめて契約していることが多く、生産農家自身が契約のことを意識していないこともある。それでも現場は困ってなかったともいえます。

 海外への持ち出しについては、法律が食と農のグローバル化に追いついておらず、いわゆる「ざる法」に近くなっている部分があります。必要な場合は海外での登録も進められていますが、けっこう大変です。登録を取得するだけでなく、海外でどう監督するのか。違法に作られたり売られたりしてもわからないし、わかった頃にはすごいことになっていて、取り締まりができない。訴訟などの解決事例については国としても経験が少ない。国内でもできることをやっていかなければいけないと思います。そのため、登録品種の管理や表示をやや厳密化するのが改正の主旨で、自家採種・自家増殖を許諾制にするのも手段のひとつですね。

 あと、罰則については、照合すれば誰でもわかりますが、現行法と同じです。

 まとめるなら、今回の法改正は必要というのが僕の主張です。農作物のブランディングを強化して農家も所得を上げて、きちんとした商品が消費者に流れていくのが理想です。改正にあたって僕が一番強く感じているのは、知的財産としての品種登録の必要性と、品種改良をやっている人へのきちんとした還元の重要性です。砕いて言えば、これからも品種改良をやっていくみんなに誇りを持って頑張ってもらいたいというメッセージかなと。

 🌱 改正によって農家が困窮するのではないかという声もありますが、いかがですか。

林:どうでしょうか。消費者の皆さんは、店頭に野菜が並んでいて、例えば小松菜が100円120円150円とあったとき、「150円だけど品質が良いから」とか「私は100円ので十分」とかありますよね。それと同じで、農家も「少し高いけどおいしい新品種で畑に合いそうだし、高く買ってもらえそう」と品種を選ぶようになるのではないでしょうか。許諾料が高くなるのではとの不安も聞きますが、公的機関が作るものについては不当に高くなることはないと思います。民間でも、もし値段を吊り上げれば売れなくなるだけのことです。

 🌱 法改正のあとも不安なことはありますか。

林:違法行為があった場合のことですね。品種登録は登録者の権利なので、取り締まるのも訴えるのも育成者です。国や警察が取り締まってくれるわけではない。国内中、育成者が見て回り、訴訟も自費ですることになっています。改正後も、それは変わらない。何とかならないものかと思います。

 もうひとつ、作物によって違いますが、果樹でも特にぶどうのような永年系では、苗代で育種の経費を還元することに無理があるのではないかと考えるようになりました。一度苗木を購入すると20年30年と使えますが、その間、育種家には経費還元のしくみがない。野菜などとは事情が違います。例えば、育成者への還元を目的に一房の販売金額に対していくらか乗せてもらうとかできないか。生産者が負担しなくても育成者に入ってくるしくみができれば、公平性もありバランスがいいのではないかなと。いい品種ならリターンがたくさんある、いい品種でなければリターンがないと、消費者による品種の評価も育成者にダイレクトに伝わりますしね。

 🌱 なるほど。ありがとうございます。最後に、農と食の未来に向けてのメッセージをお願いします。

林:僕の夢になってしまいますが、フードバレーやテーマパークみたいなものを構想しています。今、あまりにも農の現場と消費者の間が離れていると感じています。ぶどう狩りのできる観光農園などはこれまでもあったと思いますが、研究部門と生産部門、そして体験部門、消費の場面がワンパッケージになっているのがいいなと考えています。対話を通して、品種作りについても学ぶ場があり、売店やレストランもある。レーズンなど通年で扱える加工品も並んでいて、食と農の文化伝承の場にもなっている。そんなものが日本じゅう各地にできるといいなと。今年はコロナ禍でさすがにむずかしいのですが、僕も畑の中で農の豊かさを学べるイベントから取り組みたいと思っています。

 🌱 素敵ですよね、ぶどうのある景色って。

林:はい。この地域、ワインのある産地にしていきたいなと思って、今、動いているのですよ。

以上

取材:たねと食とひと@フォーラム運営委員

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