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 7月29日、たねと食とひと@フォーラムは消費者庁がゲノム編集食品の表示を義務化しないとの意向を示したことに対して、以下の通り緊急声明を発表し、消費者問題担当大臣及び消費者庁長官、消費者委員会委員長宛てに提出しました。

ゲノム編集技術応用食品の表示に関する緊急声明


 ゲノム編集技術応用食品の表示に関する緊急声明

 ゲノム編集技術は遺伝子組み換え技術の次世代版として登場してきた新しいバイオテクノロジーです。人類史上これまで経験のない遺伝子改変技術の応用をめぐり国内外で議論されています。特に、それが暮らしを取り巻く環境や日々の食卓に関わる農産物・動物の分野では、多くの市民が懸念の声を上げています。消費者庁は、ゲノム編集食品の表示を義務化しない意向です。私たちは、市民の意見を十分に考慮した上で、強い責任感をもって、ゲノム編集食品の表示について真摯に検討することを消費者庁に求めます。

多くの消費者が求めるのはゲノム編集技術応用食品の表示義務化です。

 たねと食とひと@フォーラムは、ゲノム編集技術応用食品の表示の在り方を整理・検討する中で消費者庁が示した表示義務化は困難との見解に、強い懸念を表明します。消費者庁は、科学的検証が困難だから、表示の義務化はしない見解です。しかし、「イノベーション」を優先したゲノム編集食品の社会実装一辺倒では、消費者は混乱します。上市されれば、当然、学校給食等にも使われることとなり、消費者の間では不安が高まっています。消費者の視点での表示義務化が必要です。

 厚生労働省では、届け出の実効性が十分に確保されるように、各都道府県等、各関係省庁等、在京大使館のほか、関係業界団体に広く周知のうえ、輸入品についても事前相談を受け付け、専門家によるサポート体制を準備し、届け出があった情報は遅滞なく情報公開すること、もし届け出を怠ったことが発覚した場合には開発者等の情報と共に公表する場合があるとの案を提示しています。届け出の実効性が十分に確保された成果を決して無駄にすることがないように、「ゲノム編集」表示の義務化を追求するべきです。

科学的検証に加え社会的検証により表示の義務化は実現できます。

 表示制度の実行可能性は、食品関連事業者の意向に拠るところが大きくなります。事業者が日常的に情報を把握するためには、遅滞のない公表が、また事業者の過度な事務負担なく原料管理を徹底するためには、流通履歴が管理されたしくみが必要です。また、遺伝子を改変した作物動物応用食品によって安全性に関わる想定外の問題が生じた場合の被害拡大を防ぐためには、事業者が遡って原因を究明し、追跡や回収をスムーズに実施し、問題が起きた箇所を特定することが可能なトレーサビリティ制度の確立が重要です。

 科学的検証に加えて、届け出情報、事前相談の内容、特許となっているゲノム編集ツールの購入履歴等を活用するなどの社会的検証を併用することで、実行可能性の幅は広がります。事業者及び開発者の願いも、安全・安心な商品及びサービスが市場に供給され、人々の生命や健康が守られ、仮に被害に遭っても円滑に救済されることにあるはずです。2017年9月に施行された改正食品表示基準で、消費者庁は加工食品に原料原産地表示を義務付けました。その裏付けは社会的検証(原料トレーサビリティ)です。ゲノム編集技術応用食品にも同様の方法を適用すれば、表示の義務化は実現可能と考えます。従来の育種で作られたトマトをゲノム編集GABAトマトと表示するような、いわゆるゲノム編集食品なりすまし等の表示違反の検証可能性についても、同様に考えます。

予防原則に基づいた規制の整備が求められます。

 ゲノム編集技術の結果は、遺伝子組み換え食品と同様に、完全に予測できるわけではなく、想定外のアレルゲンや有害物質が産生される恐れがあります。個々の応用分野においてもオフターゲット変異の評価体系は、国内外で未確立です。オンターゲットの変異で意図されない効果が生じる可能性も否定できません。

 十分な検証やリスク評価なしに食品として市場に出回ってしまえば、異常タンパク質によってアレルギー等の問題を引き起こすことも考えられます。食品安全性に重大な影響を及ぼしかねません。長期にわたりゲノム編集作物動物応用食品を摂取した場合、体にどのような影響を及ぼすのか、また及ぼさないのかデータがありません。悪影響が生じる可能性が排除できない以上、ゲノム編集食品も、遺伝子組み換え食品も、予防原則に基づいた規制を整備する必要があります。

 国ごとに違う対応も不安を招いています。国が食の安全ひいては消費者のいのちと健康を守る義務を放棄することになりかねません。予防原則に則った厳しい基準づくりは、国民から信任されて政策や方針を決定する立場にある人々の社会的責任です。

 農産品を輸入に頼る日本にとって、国際整合性は重要です。ゲノム編集作物・食品については、2019年2月にアメリカで利用が始まったカリクスト社の高オレイン酸大豆などが、近く日本に輸入され、表示もなく流通する見通しです。消費者庁としては、他の国に対しても、事業者もその一員である消費者・生活者の視点に立脚した主張をしていくべきです。

食の安全・安心と消費者との信頼構築に向けた政策検討が求められます。

 消費者の意向はさまざまです。消費者庁は、「消費者基本法」でめざす自立した消費者の姿の実現に向けて、消費者の「知る権利」「選ぶ権利」、そして「食品表示法」に記載された「消費者の自主的かつ合理的な食品の選択の機会」を確保しなくてはなりません。

 もとより消費者の選択の基準は、安全性だけではなく社会的、倫理的な信念や、個々の心情も含めた多様な要因からなっています。「研究者や開発者が安全だと言っているのだから、表示する必要はないだろう」という安易な思惑や、消費者の選択の背景にある多様な思いを無視した傲慢な決めつけは避けるべきです。どのような食料をつくり、どのような食料を消費するのかは、人々に保障された基本的人権としての「食料主権」です。食品を選ぶのが消費者である以上、消費者の多様な選択基準が尊重されるべきです。

 消費者庁は、「消費者行政の『舵取り役』として、消費者が主役となって、安心して安全で豊かに暮らすことができる社会を実現することを使命」としています。たとえ厚生労働省が「本年夏頃を目途に運用を開始する予定」としても、「表示の在り方についても同じタイミングで整理し、検討することが必要」とするのではなく、消費者庁の掲げる使命と指針に基づき、行動していくべきと考えます。

 消費者庁が掲げる指針の「困難な課題であっても、できる方法を考え、挑戦し続けます。」という項目には、「消費者庁は、消費者の立場から、各省庁の所管を越えた、新しい、多くの困難な課題に取り組まなければなりません。そのため、従来の行政の発想にとらわれるのではなく、前向きに、できる方法を考え、解決に向かって、全力で、積極果敢に挑戦し、一歩ずつでも前進し続けます。」と記されています。

 必要なのは、拙速に結論を出すことではなく、社会的に受け入れられるのかどうか、受け入れられるためにはどのような食品行政が望ましいかを考えることです。その政策作りには、当事者である消費者を交え、多様な意見を反映させるための丁寧な議論が必要です。

 食品の安全性はもちろんのこと、食の安心には信頼関係の構築が必要となります。消費者の信頼を得るには、一方的な説明ではなく、きめ細かなリスクコミュニケーションの実施が求められます。他の省庁や事業者等に対しては、消費者の立場に立った考え方を提示し、時間をかけてよりよい結論を導く決意と努力が求められています。

以上

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