たねと食とひと@フォーラムは、たねといのちの多様性と持続性のために活動しています。

環境省は、現在、専門委員会での結論をもとに、「ゲノム編集技術の利用により得られた生物のカルタヘナ法上の整理及び取扱方針について(案)」に関する意見募集(締切は10月19日)を行っています。「遺伝子を操作・編集した作物や魚」の一部は従来の突然変異と変わらないので、さほどの規制は必要ないという案を示しました。しかし、緩い規制で野放しになっては、企業も国も学者も責任は取れません。

9月からは厚生労働省の遺伝子組換え食品等調査会でも、ゲノム編集等の新たな育種技術を利用して得られた食品の取り扱いに関する審議が始まりました。調査会としての意見のとりまとめは11月、パブリックコメントは来年2月頃と予定されています。今回の環境省の結論が、食品としての扱いにも波及することは、言うまでもありません。家畜の飼料としての安全性も、今年度中には審議される見込みです。

当会は、バイオテクノロジーの農業応用の完全禁止を求めているわけではありません。広い層の市民を巻き込んだ社会的議論をふまえて、適切な規制のあり方を考えていくことを訴えます。もとより有識者だけの論議では不十分です。生産者や消費者を含む市民一人ひとりが、当事者として意見を表明していくことが必要です。

「ゲノム編集技術の利用により得られた生物のカルタヘナ法上の整理及び取扱方針について(案)」に関する意見募集について 締切10月19日(金)

10月19日締切 ゲノム編集規制に関するパブコメ呼びかけのお願い

たねと食とひと@フォーラム意見

 

1 カルタヘナ法の規制対象範囲について

意見

方針案の議論に影響を受ける消費者や生産者等が加わる機会を与えられなかったことは問題です。遺伝子組換えとゲノム編集は、遺伝子を操作していることに変わりありません。遺伝子を人為的に編集するには規制が必要です。自然界で起きる突然変異と同等ということですが、突然変異自体が解明されていないため、同等とは違和感があります。

生産者が在来種の米を育てていたはずが、いつのまにか、望んでもないゲノム編集米になっていたということも起こり得ます。また自然界において同様のことが起これば、元の状態に戻すことはほぼ不可能です。ゲノム編集生物が生態系に及ぼす影響は未知数で、現時点で計ることはできません。未来への責任を考えるなら、中長期的な生態系の維持を犠牲にしたイノベーションの推進は注意が必要です。

自然環境への影響、食の安全、食品表示のあり方を考えれば、遺伝子操作したゲノム編集生物等、全ての育種に関して届け出を義務付け、開放系、閉鎖系の実験・栽培に対応した拡散防止策が十分かどうか審査する等の規制を行う必要があります。ゲノム編集生物の一部を規制対象外とする案は容認できません。対象外としたものの扱いにも問題があります。確実な安全性や生態系への影響が解明されるまでは慎重な議論と新たな環境影響評価、安全性試験の確立、損害と修復等を考えた厳しい規制を課すべきです。

理由

今回のゲノム編集の検討では、カルタヘナ法を根拠に検討することの妥当性は問わないと遺伝子組換え生物等専門委員会の議事要旨にありましたが、議事録にもあるように、ゲノム編集はカルタヘナ法の制定時に想定されていなかった新しい技術です。既存の法律の文言を根拠に、その扱い方を決めるのは本末転倒です。

本来なら、カルタヘナ法を見直し、遺伝子を操作した新育種技術応用生物すべてを対象とする法律とすべきです。法の文言にとらわれず、法の趣旨・目的に沿って判断するのが科学的な態度です。

検討の筋書が、官邸、財界、産業界が司令塔となって、6月に閣議決定された「統合イノベーション戦略」にあるにせよ、専門委員会で善意や良識ある科学者の意見が無視される有様は非常に残念です。カルタヘナ法の規定に準ずるとして、外来核酸の導入のないゲノム編集を規制の対象外としていますが、生物多様性条約の下、現代のバイオテクノロジーにより改変された生物による環境や生態系への懸念によって結ばれた国際協定「カルタヘナ議定書」の目的に沿ったものに改正し、予防的措置として規制の対象にすべきです。

2 ゲノム編集技術の利用により得られた生物のうち、カルタヘナ法の対象外とされた生物の取扱いについて

意見

1 閉鎖系での使用は、自主的な情報提供も不要とされています。隔離圃場なら安全だろうということですが、災害の多い日本では、隔離された田畑や生けすでも何が起きるかわかりません。リオ宣言の第15原則に基づき、環境を保護するために必要な予防的措置として一定の規制が必要です。

2 開放系での使用についても、自主的な情報提供を求めるだけで届け出義務はありません。今日、理科実験室でもDIYゲノムを作ることができると言われています。野放しになっては、人を含む生態系の現在から将来にわたる安全性、いまだ評価軸の定まっていない生物多様性、社会的影響等に対して無責任で全く管理不十分です。開放系での使用には、届け出義務をはじめ、より厳しい規制が必要です。

理由

対象外とされたものの扱いについても、問題があります。法律の改定は必要がないので、今後は通知のような形で示すとのことですが、このような環境への影響や食の安全性など市民生活にとって重要な事案は国会で十分に審議されるべきです。

欧州やニュージーランドでは、ゲノム編集生物を規制の対象に含める判断を示しています。流動的な状況が見てとれますが、制度の国際的調和も欠かせません。もっとも厳しい規制を課している国ともトラブルが起きないようにするには、日本においても諸外国に対応した規制が必要です。新たな国際的枠組みの検討も急務です。

なお、規制や表示のための技術は未確立です。後始末ができない点では、事故、自然災害など不測の事態がおきた場合、人の手には負えない状況となるのは原発と同様に未熟な科学技術と言えます。世の中に出すには、さらに規制の確立に向けた慎重な議論を行うべきです。

最後に、ゲノム編集に関しては、オープンな論議がほとんど行われていません。研究者や事業者だけで議論を進めるのではなく、ゲノム編集作物動物等が栽培、飼育、商品化された場合、その影響を受けるであろう生産者や消費者も含めた検討の場を設置すべきです。市民とのコミュニケーションなくしては、社会的受容も困難です。

以上

 

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