たねと食とひと@フォーラムは、たねといのちの多様性と持続性のために活動しています。

 2022年1月現在、厚生労働省及び農林水産省に届け出が受理されたゲノム編集技術応用食品(以下、ゲノム編集食品)は、高GABAトマト、可食部増量マダイ、高成長トラフグの3品目です。解禁以降、日本では欠失型のゲノム編集食品の流通が相次いでいます。いずれも事業者の自主的な判断によって届け出や表示が為されていますが、届け出や表示は法的に義務付けられているものではありません。今後、国内外の事業者により無軌道な開発や流通が国内をターゲットに進められることが危惧され、消費者の不安は高まっています。

 たねと食とひと@フォーラムはゲノム編集食品の開発者・事業者の届け出と表示の義務化、食品の安全性審査、環境への影響評価など、厳しい規制を求めて提言します。


2022年1月29日

提言 

ゲノム編集技術応用作物・動物・食品流通の問題点と信頼できる食品安全行政を求めて

たねと食とひと@フォーラム

共同代表 吉森弘子

共同代表 石津大輔

  ゲノム編集技術は、遺伝子組み換え技術の次世代版として登場してきた新しいバイオテクノロジーです。人類史上これまで経験のない遺伝子改変技術の応用をめぐり、未だ国内外で議論されています。特に、それが暮らしを取り巻く環境や日々の食卓に関わる農産物や動物、食品の分野では様々な懸念が生じています。

 日本では、2018年8月に環境省がカルタヘナ法におけるゲノム編集技術の取扱いに関する検討を行いました。同年9~12月、厚生労働省は食品衛生分科会新開発食品調査部会遺伝子組換え食品等調査会において、ゲノム編集技術を利用して得られた食品等の食品衛生上の取扱いについて検討を行い、2019年9月、消費者庁はゲノム編集食品の表示を義務化するのは困難であると表明しました。

 そして、2019年10月1日、国はゲノム編集食品を世界に先駆けて「解禁」し、課題を残したまま流通が始まりました。

相次ぐゲノム編集食品の流通に消費者の不安は高まっています。

  2022年1月現在、厚生労働省及び農林水産省に届け出が受理されたゲノム編集食品は、高GABAトマト、可食部増量マダイ、高成長トラフグの3品目です。解禁以降、日本では欠失型のゲノム編集食品の流通が相次いでいます。いずれも事業者の自主的な判断によって届け出や表示が為されていますが、届け出や表示は法的に義務付けられているものではありません。今後、国内外の事業者により無軌道な開発や流通が国内をターゲットに進められることが危惧され、消費者の不安は高まっています。

開発者・事業者等の届け出や表示の義務化が必要です。

 ゲノム編集食品の開発は、国内外で盛んに行われています。そのほとんどは研究段階にあり、各国の取り扱いルールは未だ未確定です。今後、先端技術を活用した意図的な遺伝子操作食品として、環境への配慮、食品としての安全性、動物の場合は動物福祉の観点等、様々な面から厳しい規制が課される可能性があります。日本の食品の安全性を巡っても、グローバル化した食品流通システムの中で、施策の透明性の高さや誠実さが問われます。

 遺伝子組み換え原料を使用した加工食品の表示では、日本製の商品の表示が国内外で異なる事態が既に起きています。日本の食品安全行政を信頼できるものにするためには、欠失型であるにせよ、ゲノム編集食品の届け出や表示の義務化と国による迅速な情報開示が必要です。さらに、遺伝子操作技術応用食品に関する包括的な国内法の整備も不可欠です。

 2017年9月に改正された食品表示基準で、消費者庁は加工食品に原料原産地表示を義務付けました。その裏付けは社会的検証(原料トレーサビリティ)です。ゲノム編集技術応用食品にも同様の方法を適用すれば、表示の義務化は実現可能です。

 有機JASにおけるゲノム編集技術をはじめとする遺伝子操作技術は禁止すべきです。

 有機農業や有機農産物への期待は、先進国を中心に世界中で高まっています。有機JASにおける遺伝子操作技術の扱いの明確化が急務です。

 2019年11月には、農林水産省から有機JASにゲノム編集技術応用作物等を認めないと方針が示されました。ゲノム編集技術に関する有機JAS見直し検討会において、ゲノム編集技術のほか、今後開発される新しい遺伝子操作技術についても、国際的な取り決めであるコーデックスガイドラインで禁止していると考えられる技術は禁止すべきとの意見によるものです。

 しかし、2年以上経過した現在、未だに結論が出されていません。海外での動向が流動的、評価が定まっていない、検査方法が未確立等を理由としていますが、種苗を含むゲノム編集技術応用作物及び後代交配種の届け出や表示が義務化されてないことも、ボトルネックとなっている可能性があります。

 2021年5月に農林水産省が発表した「みどりの食料システム戦略」では、2050年までに有機農業面積を100万ha(耕地面積の25%)に拡大する野心的な目標が掲げられました。しかし、「国際的に行われている有機農業」と注釈があるものの、有機JASの定義が曖昧な現状では今後の展望に対する不安が拭えません。

 コーデックスガイドラインで暫定的にゲノム編集技術を「遺伝子操作技術」と定義したことに倣い、除外項目・使用禁止項目を「組換えDNA技術」から「遺伝子操作技術」に速やかに変更するべきです。

食品全般を対象としたトレーサビリティ制度が必要です。

 消費者庁は、ゲノム編集食品の表示が義務化できない理由を、「科学的検証が困難なうえ、社会的検証についても書類確認を基本とした表示の監視ではその真正性を担保することが困難なため」としています。一方で、消費者の自主的かつ合理的な選択の観点からは、厚生労働省に届出、公表されたものについては積極的に情報提供するよう努めるべきと述べています。

 日本では、現在、トレーサビリティの導入に法的な強制力がある食品は、牛肉と米・米加工品のみです。他国に比べて食品トレーサビリティの法制化に立ち遅れています。欧州連合やアメリカでの事例等も参考に、食品全般を対象としたトレーサビリティを義務付けるための法制化をすべきです。

おわりに

 国には食の安全・安心と消費者との信頼構築に向けたルール作りが求められます。食品の安全性はもちろんのこと、食の安心には信頼関係の構築が必要となります。消費者の信頼を得るには、一方的な説明ではなく、きめ細かなリスクコミュニケーションの実施が求められます。

 関連する省庁や事業者は消費者の立場に立った考え方を提示し、時間をかけてよりよい結論を導く決意と努力が求められます。消費者が不安を払拭できるように、関連省庁が連携して産学官民の知見や経験を持ち寄り、総合力で国の責務を果たすべきです。

以上

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