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 2020年10月20日(火)、東京都東村山市の果樹園『東世園』を運営委員4名が訪問しました。最寄りの駅から車で数分、住宅地の先に広がった園地に、まずびっくり。ぶどう棚の下で、園主の小山斉三さんからお話を伺いました。インタビュー形式で報告します。


歴史の感じられる看板ですね。梨はいつ頃から作られているのですか。

小山さん 昭和26年に始めたと聞いています。この辺りは東京の北多摩地域になりますが、戦前は養蚕、戦中はサツマイモと裏作の麦が中心でした。一軒ごとに養蚕小屋や芋の苗床、麦の干し場などがありましたから、農家の敷地は広かったんですよ。戦後、食糧難の時代が終わって、食にも豊かさが求められるようになり、「梨をやろうか」と。まずは祖父が音頭取りになり13軒で集まって、高級梨の「二十世紀」の苗木を長野の伊那谷から取り寄せたそうです。しかし、果樹は初めてでもあり、「二十世紀」は病気にかかりやすく、かなり苦労したようです。数年後には新たに30軒くらいが加わって、病気に強い「長十郎」が入りました。昭和34年には、武蔵村山、東村山、東大和に立川の砂川地区も入った『多摩湖梨』の組合ができました。園名は、東村山の「二十世紀園」を自負して『東世園』と名付けたそうです。府中の農蚕学校で学んだ最若の父がリーダーになって頑張っていましたが、その後、栽培の難しさや時代の流れによる周囲の宅地化の進行などで、組合の農家も減りました。昭和26年から梨作りを続けているのは、うちともう一軒だけです。

 

梨の「二十世紀」が園名の由来なのですね。関東では珍しい感じがします。

小山さん そうですね。「二十世紀」は関東では少なく、関西出身の方が懐かしいと求められることもありますが、もともとは千葉の松戸生まれの品種なんですよ。明治時代の後半だったかな。松戸覚之助さんっていう方が、ごみ捨て場に生えていた苗木を十年かけて育てたものだそうです。今でも、二十世紀が丘という地名が残っているでしょ。千葉の梨農家に『何で「二十世紀」やらなかったの?』って聞くと、気候の関係で病気にかかりやすくてあきらめたみたいですね。「二十世紀」生産日本一の鳥取などでは、生育期間中の雨量が少なかったりで病気が出にくい。うちでは、他の品種も取り交ぜて点々とおくようになってから、病気にかかりにくくなりました。多品種栽培の良さのひとつかもしれません。それと、1991年には品種改良で病気に強い「ゴールド二十世紀」が出てきましたから、それ以降に入れたのは「ゴールド二十世紀」です。これは画期的でした。

 

ずいぶんたくさんの品種を作られていますね。梨の木の寿命は、どのくらいなのですか。

小山さん 祖父や父から受け継いだ大切な木も入れて、全部で48品種くらい手掛けていたこともあります。多品種栽培をやるのは、結果的には生産面でのリスク分散ともいえますが、最大の理由は、いわゆるオタクだからということなんです(笑)。経済栽培はできなくても、また一般受けはしないかもしれないけど、究極にうまいのにあたると、めったにない幻のような味が忘れられなくて、そんな感じでいろいろと作っています。どの木も違って、どれもいいんです。何だかやっているうちに一本一本が愛おしくなってしまい、やめられなくなりました。多分、うちでしか買えないものもありますよ。

 寿命ですか。果樹には、単なる樹齢とは別に経済樹齢というのがあります。経済的に稼げる時期はいつまでかということです。人間の都合ですけどね。梨の場合、普通は20年から25年くらいがピーク。上手に管理すると40年くらいまでは何とかなりますが、さすがにそれ以上は厳しい。こういう永年果樹は、最低でも20年はやらないと稼ぎにならないんですよ。本当に長い目で、先を考えながら植え替えていくのがポイントです。

 

植え替える苗木は、主にどこで入手されるのですか。

小山さん 野菜なら種苗屋さんでタネや苗を買うでしょ。果樹にも苗木屋さんがあるんですよ。自分でやろうとしても、なかなかプロの苗木屋さんのような見事な苗は作れません。でも、全国的に苗木屋さんは減りましたね。僕が就農した1987年頃に比べたら、半分以下になったんじゃないかな。よくお世話になった広島の桝井農場も後継者不足で苗木はやめちゃったし、探すのが大変です。苗木屋さんって消費者の目には見えにくい存在ですが、とても重要です。彼らがちゃんと生活維持できるようにしてあげないと、僕ら生産者も困っちゃうんですよね。そのために種苗法が厳しくなるのなら、登録品種に限った話だし、納得できますよ。

 今度、息子が就農するので、ここから近い埼玉の所沢に畑を買いました。梨の苗木は、福岡県の田主丸の苗木屋さんから「秋麗」などを仕入れました。良心的な価格で高品質の苗木を売ってくれるところは本当に数少なくなったというのが、僕の実感です。

 

この休憩スペースはぶどうに囲まれていますね。ぶどうも多品種を栽培・販売されているのですか。

小山さん ぶどうも、いろいろな品種を試しています。これは「マリオ」。そっちの「瀬戸ジャイアンツ」は難しいんですよ。間がぽんぽん飛んじゃっているでしょ。まだ登録品種だった頃、岡山の山陽農園から仕入れました。こういった緑色の葡萄は「瀬戸ジャイアンツ」にしても「シャインマスカット」にしても、直射が強いとシミだらけになっちゃうんです。人間なら、色白の人と似ています。だから、日傘代わりに着色した袋をかけてあげるんですよ。

 販売は、庭先販売っていうか、季節限定のこの直売所がメインです。寄ってくださるのは、地域の方を中心にリピーターが多いですね。地方発送もやっています。あとは、農協の直売所に出すくらいです。育てた生産者自身が、収穫の時期を自分の目で見極めた季節の果物を、瑞々しいまま食べてもらえるのが最高だし、ここでやっている意味だとも思っているので、あえて市場出荷などはしていません。農業では、いまさらのように半農半Xとか、小規模・家族農業とか、多様な担い手が注目されるようになってきましたが、地域に目を向けると、さまざまな食と農のありかたが、確かに息づいているのが見えてくるんじゃないかな。それこそ、日本農業の強みのように僕には思えます。

 

農協の直売所では、朝採り野菜も人気ですね。他に、地域の活動もなさっていますか。

小山さん 稲荷神社のお囃子は親子でやっていますよ。今年は、新型コロナの影響でお祭りがなくて残念でした。神社に隣接する稲荷公園では、三世代交流を目的としたグループがあって、やっぱり仲間です。地域に根ざした暮らしは、農家の役得かもしれませんね。

以上

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