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今年4月に大筋合意していた日豪EPA交渉は、7月に安倍首相が訪豪して正式合意に至り署名した。今臨時国会で、政府と財務省は承認案を提出、批准の手続きに入り年明けに発効する。

 

この交渉は当初から難航し足掛け7年かかった。交渉で農産物、とりわけオーストラリア産牛肉の関税が削減ないしは撤廃されるのを恐れて、06年には衆参農水委で全会一致の決議を行っている。日豪EPA合意内容がそれらの決議に反すると思われるが、ここでは述べない。

 

今年に入ってこの交渉が急進展したのは、これまた難航しているTPP交渉と関係がある。前回、前々回の記事に書いた通り、多数が賛成した衆参農水委決議との整合性を図るべく日本のTPP交渉姿勢は自動車問題とリンクさせて、農産物重要5項目の関税撤廃の「聖域」を先に保証するよう米国と交渉した。しかしあくまで関税撤廃を主張する米国との交渉は停滞した。

 

当時、西川公也・自民党TPP対策委員長が政府の権限を持たないまま、この膠着状態を打開すべく、「日豪EPA交渉を進展させて、米国を牽制する」とし、日豪EPA交渉を主導し急進展させ、4月上旬に大筋合意に至った。下旬の日米首脳会談の前にである。

 

大筋合意の内容の詳細は割愛するが、ここで問題なのは、オーストラリア産牛肉の関税削減についてである。現行関税38.5%を冷蔵牛肉は15年目に23.5%に、冷凍牛肉は18年目に19.5%まで段階的に削減し、セーフガードで輸入量の急増を抑えるという内容だ。同月下旬に日米首脳会談で合意したとされるTPPの「方程式合意」と同一である。日米合意では、農産物重要5項目に関してこの他に無関税輸入枠や低関税輸入枠などを設け、関税撤廃を免れたとされている。

 

この日米首脳会談については、さまざまな報道がなされてきた。ここでは2人の識者(ジャーナリストの東谷暁氏と鈴木宣弘・東大大学院教授)の論を取り上げる。

 

日米首脳会談以降の政府発表には疑いがあるとしている。

 

★東谷暁「日米首脳会談後、私たちは両国の高官が「交渉は進んでいる。具体的なところまでは詰めていない」と語るのを何度聞かされたことだろう。人によっては努力していることの表れと受け止めたようだが、まともなセンスで判断すれば、両国高官はカブキプレイ(芝居がかった仕草)をしているだけのことだ。」日本農業新聞2014年8月18日

http://twishort.com/IBigc

 

★鈴木宣弘「わかったことは、TPPを決着するには牛肉・豚肉・乳製品の関税をさらにゼロに近づけるしかない(冷凍牛肉では38.5%→19.5%→9%→まだ下げ足りない)という重大な事態に陥っているということである。」JC総研2014年9月17日

http://www.jc-so-ken.or.jp/pdf/agri/tpp/20.pdf

 

米国オバマ大統領は難航するTPP交渉を11月に合意したいと声明したことで、9月23、24日のTPP日米閣僚協議で日本側が踏み込んだ譲歩案を用意して合意に至るのではないかとの観測が流れた。結果として合意に至らなかったが、譲歩案を用意したことは甘利明TPP担当相も会見で述べている。

 

この件について、磯田宏・九州大大学院准教授は警鐘を鳴らしている。

 

★磯田宏「今回、譲歩案を示していたとすれば、その提案が今後の交渉のスタート地点になってしまう。自民党などは日豪EPAの大筋合意が「ぎりぎりの越えられない一線(レッドライン)」とした。日本の政府・与党からは関税撤廃さえしなければいい、という態度が見え隠れしている。しかし国会は重要品目を関税交渉から「除外または再協議」にする旨決議しているのだ。」日本農業新聞2014年9月26日)

http://image.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=30019

 

TPP交渉はマスメディアが多数報じているように、9月のTPP日米閣僚協議が不調に終わったことによりオバマ米国大統領の目指していた11月合意は危ぶまれている。TPA(大統領貿易促進権限)法案が米国議会で成立していない以上、中間選挙後すぐには合意できないのではないかとの観測が多くなされている。

 

さて、ここからが本題。

 

通常、二国間の自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)には最恵国待遇の条文が入っている。すなわち協定を結ぶ二国は第三国より通商などで最大に優遇しますよというものである。冒頭取り上げた日豪EPAには当然入っている。本日(2014年10月3日)付の日本農業新聞2面の記事を参考にされたい。

 

★日本農業新聞「日本が他のEPAで、オーストラリアよりも優位な条件を約束し、日本市場でオーストラリア産が不利になった時―に見直しを行う」2014年10月3日

http://image.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=30126 ※無料会員登録で全文閲覧できる

 

つまり日本が他国と日豪EPAよりも優位な協定を結んだ時には、日豪は再協議を行うということである。

 

もし、TPP交渉が妥結して日豪EPAでのオーストラリア産牛肉よりも低い関税になった場合、当然協定文案にあるように日豪は再協議を行い、両国が「最恵国待遇」を受けられるようにする。最恵国待遇なのだから、TPPよりも日豪EPAの方がオーストラリア産牛肉輸入関税は低くなるように再協議することになる。

 

そうなると、もし上記鈴木宣弘・東大大学院教授が述べているように牛肉関税が9%以下になった場合は、日豪EPAでのオーストラリア産牛肉輸入関税はそれ以下に引き下げられることになる。しかし、問題はこれだけではない。

 

そもそもTPPとはどういう協定なのかという問題が浮上する。「野心的に(域内の)自由貿易」を実現する多国間協定である。現在、交渉では関税については二国間協議が行われている。秘密協定であるので条文案が閲覧できない以上、観測筋の見方に頼るしかないが、関税については参加国で一致したものになるという見方が大勢だ。

 

だとすると、多国間交渉であるTPPにおいても「最恵国待遇」は発生する。最終的にどういう条文になるかは現段階ではわからない。わからないが上記の通りTPPが域内自由貿易体制を目標としているなら、他の二国間のFTAやEPAより参加国は「最恵国待遇」になる筈だ。

 

もう、お分かりだろう。

 

日豪EPA協定を批准してしまえば、農産物関税は、限りなく関税撤廃に近づくことになる。TPPより日豪EPAの関税が低くなれば、TPPより憲法が上位にある米国はTPP再協議を要求するだろう。そして日豪EPAよりTPPの関税が低くなれば、日豪EPAの再協議をオーストラリアは求めてくる。

 

★無限の「最恵国待遇」連鎖。これを当初から西川公也・現農相は知っていたと思われる。

 

※当初、米の関税についても言及する予定だったが長くなるので次回以降に回します。

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